長崎地方裁判所佐世保支部 昭和34年(む)1519号 判決 1959年11月26日
被疑者 中島照美
決 定
(被疑者氏名略)
右被疑者に対する窃盗被疑事件について、長崎地方裁判所佐世保支部裁判官が昭和三十四年十一月二十一日なした勾留請求却下の裁判に対し、佐世保区検察庁検察官より同日右請求却下の裁判の取消を求める旨の準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
被疑者に対する検察官の勾留請求について、昭和三十四年十一月二十一日長崎地方裁判所佐世保支部裁判官のなした右請求却下の裁判は之を取消す。
理由
検察官の本件申立の要旨は、別紙申立の理由記載のとおりである。よつて、検察官提出の各資料を検討すると、本件被疑事実は一応疎明せられたものと認められる。そこで被疑者につき刑事訴訟法第六十条各号所定の理由があるか否かを考えてみるに、前示各資料によると、被疑者は昭和三十四年十月十七日より本件の犯行場所である「富士乃屋旅館」こと大阪貴沙子方に女中として住込んでいたものであるが、同所においては本件金二万一千円の金員を窃取した事実の外にも右貴沙子の娘一枝の名古屋帯一本を窃取していて、被疑者が身柄を釈放された場合、現住居となつている同旅館にはも早住みにくい状況であるし、佐世保市早岐汐入町千五百四十五番地高柳方を間借りしている被疑者の夫中島正は魚行商人をしていて度々不在勝で、司法警察員が捜査に赴いた折も所在不明であつたことがあり、被疑者は多額の借財を背負いその借財を返すため働かなければならない立場にあるので同人方に落着くことは困難であると考えられる。以上の事実を綜合すると、現在被疑者の身柄を釈放した場合、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるものと解される。
よつて刑事訴訟法第六十条第三号によつて本件被疑者を勾留すべき理由があるから、本件申立は理由があるものとしてこれを認容すべく、勾留の理由なしとして被疑者に対する勾留請求を却下した原裁判は失当として、同法第四百三十二条、第四百二十六条第二項によりこれを取消すことゝし、主文のとおり決定する。
(裁判官 池田修一 森永竜彦 杉山修)
(準抗告申立理由略)